「高句麗」化する北朝鮮:北朝鮮による対中国牽制(夷を以て夷を制す)は可能か?

逆転の発想

北朝鮮の核問題は、いまだに解決の目途が立っていない。

先日行なわれた日米首脳会談の席で、安倍首相とトランプ米大統領は、北朝鮮の非核化のために、最大限の圧力をかけるべきだとする方針を再確認している。

しかし、北朝鮮が圧力に屈して核ミサイルの放棄を決断するというシナリオは、多分に非現実的であると言えよう。

現実的な解決の選択肢は、次の二つしかないだろう。

北朝鮮に対して武力攻撃を行なって、核ミサイルを無力化する。

もしくは、北朝鮮の核を容認した上で、米本土への攻撃を可能にするICBMの凍結、並びに中東への核ミサイル技術拡散の抑制などと引き換えに、制裁を緩和する。

前者がソウルや東京を犠牲にするリスクを負っている以上、とり得る選択肢は後者しかあるまい。

もっとも後者は、日本が常時北朝鮮の核ミサイルの標的にされることを意味するだけに、日本の世論は受け容れ難いだろう。

しかし筆者は、ここであえて逆転の発想につながる仮説について検討することにしたい。

事実上核保有国として認められ「軍事大国」となった北朝鮮が、中国を牽制する存在になり得る、すなわち日本にとっては、まさに夷を以て夷を制することが起こり得る、という仮説についてである。

そしてその仮説を検討するに当たっては、朝鮮半島の歴史を参照することにしたい。

高句麗の対外関係

朝鮮半島の北部に本拠地を置く「軍事大国」の出現は、実に668年に滅亡した高句麗以来のことである。

(なお渤海は高句麗の滅亡後、その遺民によって建てられた王朝であり、「海東の盛国」と称されたが、本拠地が現在の中国の東北地方に置かれていたことから、ここでは考慮に入れない)。

また朝鮮半島が半世紀以上の長きにわたって分断されたのも、高句麗・百済・新羅の三国時代以来のことである。

高句麗は紀元前1世紀頃、現在の中国の東北地方に興ったツングース系民族の王朝であり、その領土は現在の北朝鮮よりもはるかに広く、中国の東北地方から朝鮮半島の北部にまでまたがっていた。

第20代長寿王の時代の427年に、南方の拠点であった平壌に遷都している。

かの有名な「広開土王碑」によれば、高句麗の第19代広開土王(374~412年)は、新羅を降し、支配に服さない百済を攻撃したばかりでなく、百済と結ぶ倭、すなわち日本とも戦火を交えて撃退している。

一方、高句麗は、6世紀末に中国を約350年ぶりに統一した隋に対して、臣従の意を示していた。

しかし、隋は「軍事大国」の高句麗に対して脅威を抱き、幾度も大軍を送って攻撃を行なっている。

高句麗は隋の大軍による攻撃をことごとく退けて、ついには隋の自壊をもたらした。

隋の民衆が高句麗遠征の重い負担に耐えかねた挙句、反乱を起こしたのである。

高句麗は、短命であった隋の後を襲った唐に対しても、臣従の意を示していた。

しかし隋と同様に、唐も「軍事大国」の高句麗に対して脅威を抱いて、攻撃を加え、さらには新羅と同盟を結ぶこととした。

一方、高句麗は宿敵・百済と同盟を結び、百済を介して倭とも連携することとした。

ここに唐・新羅対高句麗・百済・倭の対立の構図ができあがる。

最終的に高句麗は百済ともども、唐・新羅連合軍の攻勢によって滅亡した。

周知のように、663年の白村江の戦いでは、百済を救援しようとした倭軍もまた大敗を喫している。

史実が示唆するもの

ここで、高句麗を北朝鮮、隋や唐を中国、新羅を韓国、倭を日本になぞらえることにしよう。

そうすると、上記の史実から、以下のような実に興味深い示唆が得られるだろう。

①高句麗に対する隋や唐の攻撃は、長年「血の絆」の下で、中国からジュニア・パートナーとしての位置付けられてきた北朝鮮も、いざ核を保有して「軍事大国」となれば、中国から潜在的な敵国として扱われ得ることを示唆している。

②唐と新羅の同盟は、中国と韓国が連携して、北朝鮮を牽制することを示唆している。

③百済を介した高句麗と倭の連携は、日本と北朝鮮が連携して、中国を牽制することを示唆している。

さて、①と②については、沈志華・華東師範大学教授も端的に「(北)朝鮮は中国の潜在的な敵人であり、韓国こそが中国の友人なのだ」と述べている(矢吹晋『習近平の夢』)。

もっとも周知のように、中国当局は、在韓米軍が北朝鮮に進出して、中国の国境付近にまで展開することを何よりも恐れてきた。

要するに、中国は次のようなジレンマに陥りつつあると言ってよいだろう。

北朝鮮に徹底した経済制裁を加えて、北朝鮮が崩壊したり、あるいは米朝間で戦争が勃発したりして、在韓米軍が北朝鮮に進出するようなことになれば、中国にとって深刻な脅威になる。

かといって、北朝鮮が事実上核保有国として認められて、「軍事大国」になっても、やはり中国にとっては潜在的な脅威になる、と。

後者については、「中国は米国のように北朝鮮の怒りの矛先にされるのではないかと、一部の外交官や専門家が危惧」している(『ニューズウィーク』)、という報道に垣間見られるだろう。

中国は昔も今も、朝鮮半島北部における巨大な軍事的プレゼンスそのものを、程度の差こそあれ、安全保障上の脅威として見なしてきたのである。

特にそうした巨大な軍事的プレゼンスが強力な外部勢力と連携した時に、中国に対する脅威が極限に達すると言ってよいだろう。

高句麗は、隋や唐のライバルであった遊牧王朝・突厥と連携していたが故に、隋や唐は死に物狂いになって、高句麗を滅ぼそうとした。

北朝鮮に進出してくるかもしれない在韓米軍は、西太平洋に展開する米第七艦隊と一体であるが故に、中国当局は在韓米軍の北朝鮮への進駐を是が非でも阻止しようとしてきた。

一方、北朝鮮は今日までのところ、中国を仮想敵とする強力な外部勢力と連携する可能性が低いことから、中国にとって潜在的な脅威にとどまっている。

日米の目から見て、中国が北朝鮮の核問題に対して、危機感が薄いように映るのはそのためである。

日本の選択

さて、果たして日本は③を選択し得るだろうか。

すなわち北朝鮮と連携して、中国を牽制し得るだろうか。

無論のこと、現状では全くあり得ないだろう。

周知のように、日朝関係の改善には大きな困難が横たわっているからである。

たとえ米国政府が北朝鮮の核を容認しても、日本の世論がそれを許さず、日本政府もかたくなに非核化を求め続けるかもしれない。

また拉致問題の完全解決を求める世論も依然として根強いことから、日本政府もその方針を堅持せざるを得ないだろう。

(筆者とて、北朝鮮が核を放棄し、拉致問題を完全に解決することがベストだと考えており、さらには北朝鮮の民衆が立ち上がって、金正恩政権を退陣に追い込み、民主化を実現するように願っている)。

しかし北朝鮮の核が容認されれば、日本が二重の脅威にさらされるようになることを、忘れるべきではないだろう。

すなわち日本は、中国の海洋進出によって領土・領海やシーレーンを脅かされるのに加えて、常時北朝鮮の核ミサイルの標的にされるのである。

当面、こうした二重の脅威にさらされるという最悪の事態を回避することが、最重要課題となるべきだろう。

中長期的に見れば、アジア太平洋地域において覇権を確立しようとする中国の方が、北朝鮮よりも、日本に対してはるかに深刻な脅威を及ぼし得ることについては、衆目の一致するところとなっている。

そうしたことを踏まえると、日本は思い切って北朝鮮には融和的姿勢をとる一方で、専ら中国のみを牽制するという外交政策をとって然るべきではなかろうか。

せめて日本は、北朝鮮との敵対関係に終止符を打って、国交正常化にまでこぎ着けることはできないだろうか。

さらに米朝間の橋渡しをして、両国の国交正常化をもたらすことができれば、なおのこと良い。

無論のこと、日朝の国交正常化の後にも、北朝鮮の核ミサイルは、今日ほどではないにしても、依然として日本にとって潜在的な脅威であり続けるだろう。

しかし北朝鮮は、日(米)との敵対関係から解放されれば、自国をジュニア・パートナーとして位置付ける中国に対して、核戦力を背景に、これまで以上に自己主張を強めるにちがいない。

そうなれば、中朝間の摩擦が激化して、中国に及ぼす北朝鮮の潜在的脅威は増大するだろう。

それがひいては中国を牽制することにつながるのである。

Source: http://www.huffingtonpost.jp/feeds/japan/index.xml

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