朝鮮半島において想定されるシナリオ 対話のチャンネルを閉ざさないこと

アジアにおける核の傘に、穴が開いたのかもしれません。

北朝鮮がアメリカを攻撃する能力を手に入れれば、アメリカが日本や韓国の安全保障で譲歩するリスクがあります。それに気づけば、日本や韓国の核武装論は高まることでしょう。もちろん、中国は穏やかではありません。

この軍事バランスの変化について、私たちは何らかの決着をつけなければならなくなってきました。外交的に統一した戦略を日米韓が協調してとってゆくことが極めて重要な局面といえます。

今後、朝鮮半島において想定されるシナリオは、大きく3つに分けられます。

まず、崩壊シナリオ。

これは、北朝鮮の政治的あるいは経済的な不安定が進行し、内側から崩壊するというもの。具体的には、粛清を恐れた政権幹部が主導してクーデターが発生したり、内戦状態となることを想定します。ただし、現状では、政権は安定しているようであり、ほとんど考えられないシナリオです。

それでも経済封鎖が長期化し、飢餓や弾圧が極限になった場合には、一部の住民が暴動を起こし、それが連鎖的に広がって収拾がつかなくなったり・・・、ということも想定しなければならなくなります。この場合には、かなりの難民が発生する可能性があり、日本へのボート・ピープルの漂着も含めて直接的影響が甚大となります。

次に、戦争シナリオ。

これは、北朝鮮が韓国あるいは日本を攻撃し、米韓連合軍が北朝鮮を粉砕するというものです。あるいは、イラク戦争のときのように、トランプが何らかの言いがかりをつけて(戦争の口実をみつけて)、北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける可能性もあります。

北朝鮮はNLLを越えて延坪島を砲撃したことがあります。2010年のことでした。東京やソウルを狙うとは思いませんが、似たような事件で挑発してくるかもしれません。対話のラインが途絶えていると、金正恩がレッドラインを越えてしまう可能性はあります。

ワシントンが決断した場合には、一気に軍事的に半島が制圧されるので、北朝鮮からの難民が流れ出すことは(ほとんど)ないと考えられます。つまり、日本への直接的影響は少ないでしょう。ただし、日本は軍事的貢献ができない以上、(核の危機から解放してくれる)米韓同盟への戦費支払いは莫大なものになると覚悟すべきです。

もっとも、南下してきた中国の人民解放軍との主導権争いなど、より劣悪な戦争シナリオも想定する必要があるかもしれません。不安定要素によって半島の制圧が遅れると、人道支援も遅れて、大量の難民を流出させてしまう可能性はあります。

最後に、融和シナリオ。

これは、金正恩による独裁政権を国際社会のなかで安定的に位置づけるというもの。北朝鮮が段階的な和解策に応じ、核開発とミサイル発射を凍結、さらに核武装を放棄することを期待します。北朝鮮にとっても、周辺諸国にとっても、もっとも穏健なシナリオになりますが、いまのところ、金正恩は開放路線に何の関心も示そうとはしていません。

さて、これら「崩壊」「戦争」、そして「融和」という3つのシナリオについて、私たちは北朝鮮をどの方向に導こうとしているのでしょうか?そのあたりの戦略的なイメージが日本で共有されていないように思います。あるいは、そういう議論ができないままに、漠然と「徹底的に圧力かけていれば、なんか都合よいことになるんじゃないか」と安直に考えている節もあります。

北朝鮮が核武装を解かないのであれば、戦争してでも金正恩の首をとりにいくのか・・・、異次元の圧力をかけて北朝鮮を崩壊させるつもりなのか・・・。そんなことを望んでいる国などないはずですが、安倍首相が「圧力!」を連呼している様子をみると、そのような誤解を生じかねない危険を感じてしまいます。

もちろん、圧力は外交的解決において必要です。いま、手を抜くべきではありません。ただし、圧力を目的化して、落としどころを見失っていると、思わぬ結果をもたらすリスクがあります(第二次世界大戦における日本がそうでした)。

以下、私なりの考えを述べてみようと思います。

日本の安全保障や社会経済からみて「融和シナリオ」に勝るものはありません。これが実現しなかったときの「戦争シナリオ」を否定はしませんが、いまは融和をめざすべきときです。いや、ほんとに融和を諦めているのなら、さっさと制圧した方がいいですよ。中途半端な先延ばしは、核武装を強化させるだけですから・・・。

融和の条件は、言うまでもなく北朝鮮の核凍結です。北朝鮮が核武装している目的は、米国の軍事的脅威に対抗するためです。当たり前の話ですが、トランプ大統領が軍事的解決をちらつかせる限り、北朝鮮の核開発は進められます。つまり、融和からは遠ざかり、戦争シナリオの現実味が増してゆくだけです。

金正恩が「核兵器なしでは生き残れない」と思い込んでいる限り、融和シナリオへは向かわないでしょう。私たちは、金正恩に「核兵器なしでも生き残れる」ことを示していかなければなりません。

米国のティラーソン国務長官は「北朝鮮の政権交代を意図していない」「現政権の崩壊を意図していない」と言及していますが、その具体的な生き残りのイメージを伝えられているでしょうか?国連でのトランプ大統領や安倍首相の演説は、やはり崩壊させるつもりではないか・・・ とすら感じさせる威圧的なものでした。

融和するつもりがあるのなら、北朝鮮に圧力をかけているだけではダメです。信頼関係のあるチャンネルを閉ざさないこと。信頼関係のないところで交渉しても決裂するばかりです。

今週、韓国政府が、国際機関を通じて800万ドルの支援を表明したことについて、私は大いに評価します。核開発への影響の少ないところ(ゼロとは言いません)を慎重に選んだ、融和への布石となる優れた戦略でした。信頼関係のチャンネルも、僅かながらも維持されるでしょう。

石油の禁輸など生活に直結する経済封鎖のなかにあって、北朝鮮の病院や学校は大きな困難に直面していることと思います。WFPを通じて、北朝鮮の子供たちに栄養ある食糧を現物で提供することを批判すべきではありません。また、ユニセフを通じて、乳幼児や妊婦にワクチンや医薬品を供給することは、万が一、彼らが難民として流出したときへの備えにもなるはずです(麻疹をバラまかれるよりいいでしょう)。

平壌に対する経済的な圧力は必要です。金脈を徹底的に探り、核開発に必要な物資や技術の流入を阻止するべきです。しかし、一般市民への圧力については、できるだけ選択的に行われるべきです。あるいは、選択的な支援とセットでなければなりません。

そもそも、北朝鮮の乳幼児や妊婦は、金正恩の核開発の代償を負わされるべき人々ではありません。また、代償を負わせたとしても、融和を促進することはないでしょう。むしろ、もっとも私たちが恐れるべき、北朝鮮崩壊のリスクを高めるだけだと気づく必要があります。

おそらく・・・、米国への核攻撃の能力を手に入れた北朝鮮は、次は日米韓の同盟関係を試すような行動をとりはじめます。このとき世論も含めて、私たちの同盟がゆるぎなく、どれだけ一致した戦略的対応がとれるかが問われることになります。

経済封鎖下のバグダッド大学病院(1997年)にて筆者撮影。点滴も消毒薬も枯渇するなかで、栄養不良の子供たちが次々と命を失ってゆきました。1991年から2003年までの徹底した経済封鎖も、結局は一般市民を苦しめるばかりだったのです。 たとえば、平均寿命は68歳から47歳まで低下しました。ワクチン接種率も低下し、ポリオや破傷風など鎮圧したはずの多くの感染症で子供たちが死にはじめました。そして、栄養不良が5歳未満児の死因の第3位に浮上しました。 しかし、これだけ締め付けても、独裁者サダム・フセインを追い詰めることはできなかったのです。結局、大量破壊兵器を保有しているとの名目で、イラク戦争へと突入していきました。そして、大量の戦費を私たちは支払うことになったのです。イラクの経験から私たちはもっと学ぶべきでした。

Source: http://www.huffingtonpost.jp/feeds/japan/index.xml

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