消費、技術革新、そして金融政策 -平成29年度版「経済財政白書」を参考に-

前回の「最近の雇用状況について -平成29年度版「経済財政白書」を参考に-」では「雇用指標改善の真相」のフォローアップとして、白書を参考にしつつ雇用について書きました。今回は白書が注目した消費と技術革新について書きたいと思います。

白書は「第1章 緩やかな回復が続く日本経済の現状 第2節 最近の消費動向の検証と消費喚起に向けた展望」で、消費について取り上げており「1 個人消費の構造変化」で

平均消費性向は2014年以降低下傾向にある(p.41)

と指摘しています。

平均消費性向とは平均的にみて所得のどのくらいの比率が消費にまわるのかを見たものです。消費にまわらなかった所得は貯蓄と定義されます。

一方、白書の「第1章 緩やかな回復が続く日本経済の現状の第2節 最近の消費動向の検証と消費喚起に向けた展望の3 消費の伸びが弱い背景」で

家計は一時的な所得ショックに対して消費を平滑化するため、所得が増加する局面では平均消費性向が低下する傾向があるが、2012年以降継続的に景気の緩やかな回復基調が続いている中でも平均消費性向が低下していることは、家計の消費意欲が何らかの原因で抑制されている可能性を示唆している(p.55)

としています。

しかし、2014年以降の動きであれば、2014年は実質GDPがマイナスになる経済の停滞がありましたから所得は低下したでしょうし(消費税増税の影響について「2014年の消費税増税はどのくらい景気に影響しているか?」を参照)、所得に対して消費は平滑化されますから、所得の減少ほど消費は減りません。結果、2014年の消費性向が上がっているはずです。

一方、2015年以降所得が回復しても安定的な消費は所得ほど増えませんから、2014年と比べれば消費性向は低下するでしょう。

同様に2011年は震災があり経済は停滞すれば、所得の減少により平均消費性向は上昇していますから、それ以降平均消費性向の低下してもおかしくはないでしょう。

一方、白書は

恒常所得仮説に基づくと、家計は、将来の賃金の変化を踏まえて生涯に稼ぐ所得を予想し、それに基づいて今期の最適な消費水準を決定する(p.55)

と指摘しています。

恒常所得は生涯所得と考えて良く、例えば将来の所得が増えていくことが予想されれば、家計はそれを先取りして現在の消費を増やしても良いと考えるということです。

そのため消費の低迷はこれから景気が良くなって所得が増えることに悲観的であると、国民はより長期的に考えている可能性があります。

経済学的に所得は生産から得られるはずであり、沢山モノが作れるようになって売れば所得は増えます。もちろん、作っても売れないと考えられれば不況になりますが、しかし今より生産がそれほど増えていかないと思ったなら、どうして所得が増えることを予想できるでしょうか?

生産量が同じでも高く売れれば所得は増えますが、経済全体でもそうであればインフレが起きてその所得では買える量が実質的には変わらないことになります。ここでの所得は一人(世帯)当たりですから、人口の減少による経済全体の生産量の減少も関係ありません。

また、白書は「第1章 緩やかな回復が続く日本経済の現状の第2節 最近の消費動向の検証と消費喚起に向けた展望の3 消費の伸びが弱い背景」で

消費の喚起には複合的な対策が必要…一つ目は、将来の雇用・所得環境に対する信頼感の回復(p.67)

と指摘しています。

これには社会保障などによって将来不安が減ることによって、貯蓄する替わりに消費を増やすことも考えられますが、しかし経済全体のパイが増えることが期待できない限り限界はあるでしょう。

消費性向自体が上がる、あるいは恒常所得が増えると見込まれるためには、景気回復や安定した生産増加による経済成長が見込まれる必要があるのです。

一方、白書の「第2章 働き方の変化と経済・国民生活への影響の第3節 働き方改革が国民生活に与える影響の2 多様な働き方と財・サービス需要の変化」では

政府は…2017年に入ってからは「プレミアム・フライデー」の普及 に努めているが、こうした取組により労働時間が短縮されることで、これまで以上に早い時間帯も含めて買い物やレジャー活動等の時間が拡大し、それに関連する消費が拡大することが期待される(p.134)

としています。

しかし、消費には支払いが必要であり、それには所得を得る必要があります。例えば、賃金収入などが変わらずに労働時間の短縮には成功した結果、労働時間当たりの賃金が増加し余暇が増えたとしましょう。

しかし、将来を通じた所得(恒常所得)が変わらないとすれば、それに基づく消費計画を変更して消費を増やすのは難しいでしょう

所得、特に「2014年の消費税増税はどのくらい景気に影響しているか?」で書いたように雇用者所得と消費との結び付きは強く、消費性向が一定でも雇用者所得自体が増えれば消費が増えることが期待されます。

しかし、いつの間にか最近では、消費が増えないと景気が良くならないという逆のことが言われるようになり、話が堂々巡りしてしまっているようです。

そのため、消費を上げるためにまず賃金を上げることが重要と言われますが、私が「日銀の総括的検証はどう検証されたか?」で書いたように、要請によって企業が賃金を一時的に上げたとしても、それが恒常所得ではない限り効果は限定的(消費性向が低下する)でしょう。賃金もまた景気が回復しなければ上がるようには思えません。順番は逆なのです。

賃金収入が上がるように景気が回復するというのは、同じ労働でもより多く生産することであり、生産性の上昇と関係します。そのためにもっとも重要なのは様々な技術革新であり、次いで資本設備増強とされます。

白書では「第3章 技術革新への対応とその影響」で技術革新について取り上げいます。その「第1節 技術革新が生産性に与える影響の2生産性の国際的なトレンド」では

先進国について、過去20年間の生産性上昇率の推移を5年ごとに振り返ってみると、 最近になるほど多くの国で上昇率が低下ないし伸び悩んでいる様子がみてとれる(p.151)

と指摘しています。

この問題には多くの有力な経済学者達が研究テーマとして関心を持ち始めているようですので今後に注目したいものです。

中でも生産の低下に早くから直面したのは日本ですが、続いて白書ではアメリカとスウェーデンが比較的高い生産性の上昇を保っていることを指摘しています。

白書では以下の図のように、最近ではスウェーデンと日本ではICT(情報通信技術資本)装備率に差が出ていることも指摘していますが、全体的にアメリカやスウェーデンではTFP(全要素生産性)の伸びがより大きいようです。

平成29年度版「経済財政白書」-技術革新と働き方改革がもたらす新たな成長-  「第3章 技術革新への対応とその影響 第1節 技術革新が生産性に与える影響 2 生産性の国際的なトレンド」第3-1-1図 先進国における生産性上昇率の推移 (p.153)より。

この全要素生産性はあまり具体的にははっきりしない要因による生産性の伸びであり、そのため私はこれを「最近の雇用状況について -平成29年度版「経済財政白書」を参考に-」の中では「経済的な技術革新というのは掴み所のない漠然としたもの」と書きました。

経済が成長する二番目の重要な要素は資本の蓄積つまり設備投資などです。標準的な考えでは、まず技術革新が起こって生産性が上がれば、投資収益も増えますので投資が誘発されます。

例えば、設備が古くなって減耗すれば生産性が落ちていきますが、新しい設備に更新して落ちた生産性を回復させられることによる利益が資金調達コストより上回る時に更新投資が起こります(いわゆるヴィンテージ問題)。

つまり、設備を新しくする利益が十分に生じるようになるまで既存設備が古くなって減耗した時に更新投資が起こります。

更にそのような場合に、技術革新によって更新する設備の性能が向上していれば、全く同じ設備に更新するより利益は大きくなるでしょう。

このような技術革新が起こることは予め分かっているわけではありませんが、実現が明らかになれば更新投資の利益も大きくなるので、設備の性能の向上による生産性の上昇の利益を設備の費用の増加が完全に相殺しない限り、投資が誘発されて前倒しされていくでしょう。

このような更新投資を誘発する技術革新はコンピューターのようなものでは特に目覚ましいと考えられます。

しかし、投資には資金コストの影響も重大です。もし投資が低迷しているなら、それは恐らく技術革新の低迷以上に資金コストが高過ぎるからでしょう(更新投資は技術革新がなくても減耗によって必要になります)。

もし、このようなことが経済において無視できなければ、資金コストが高いことによる投資の低迷が技術革新を低迷させていることになります。それに有効に対処できるのは金融政策です。

今より投資を増やすために必要なことは、資金コストを下げることで、それを可能にするのは中央銀行の金融政策です。「雇用指標改善の真相」でも「金融政策は中央銀行がその時の実勢市場金利の下で、(予想実質)金利を上下に誘導するもの」と書いたように、金融政策は金利誘導することに他ならないからです。

マイナス金利の深堀りによって(実質)金利が下げられれば投資が起こり、投資自体が需要項目ですから、第一弾の金融緩和の効果として景気を回復させます

そして、投資による資本蓄積自体も労働生産性を上げ、また投資が技術革新を後押しすれば更に生産性が上がることで賃金は上がるでしょう。

こうして賃金が上がれば消費が増え第二段階の景気回復効果となります。また、この消費の増加は、将来的な生産の増加による恒常所得の増加を見込んだものとなっているのです。

Source: http://www.huffingtonpost.jp/feeds/japan/index.xml

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