みんなのブロックチェーン入門(1)~ブロックチェーンは世界を変えるかもしれない:研究員の眼

ブロックチェーンは、世界に変革をもたらす技術と期待されている。パソコンやインターネットに匹敵する技術革新だとの声もある(*1)。日本でも2015年後半からメディアで報じられる機会が増え、関心が高まっている。

しかし、ブロックチェーンを理解することは容易ではない。特に多くの読者を悩ませるのが、専門用語の多さではないだろうか。

そこで、これから数回にわたり、特に「IT苦手」な読者に向けて、なるべく専門用語を使わずにブロックチェーンを紹介していきたい。第一回である本稿では、導入としてブロックチェーンの注目されるポイントを概観する。

(ブロックチェーンは「管理者」ではなく「仕組み」が信頼をもたらす技術)

IT技術の進展により、紙で記録されてきた多くの情報が電子化された。しかし、大事な情報については、「管理者」が「特定の場所」に保管し、信頼性を担保するという構造は、電子化された今も変わっていない。

大事な情報とは、お金や権利、プライベートに関する情報などを思い浮かべてもらうと分かりやすい。大事な情報は、誤って記録されても、また消えてもいけない。データを改ざんされても、システムが止まってもいけない。

例えば預金の情報は、「銀行(管理者)」が何重もの対策を施した「銀行のサーバー(特定の場所)」で保管し、データの正確性やシステムの安定稼動を保証してきた。

ブロックチェーンは、大事な情報を「複数の場所」で共有することなどの「仕組み」によって、「管理者」がいなくても、データの正確性を保証し、改ざんなどの不正を困難にしたのである。

この「管理者」を「仕組み」で代替することを可能にしたというのが、ブロックチェーンを理解する上で重要なポイントである。

(ブロックチェーンの最大のメリットはコスト削減、新興国で先行して導入が進む可能性も)

ブロックチェーンは、「管理者」を「仕組み」に置き換えることで、大幅なコスト削減が実現できると期待されている。なお削減されるコストは大きくわけて以下の二つである。

第一に、システムコストの削減が期待される。これまでは「特定の場所」でデータを管理していたため、「特定の場所」で問題が生じると、システムが停止する恐れがあった。

例えば、預金の情報を保管する銀行サーバーが壊れると、預金が引き出せなくなってしまう。またハッキングなどによりデータが改ざんされてもいけない。そのため、システムが止まらないよう、また改ざんなどがないよう、多額のコストをかけ何重にも対策を講じていた。

一方、ブロックチェーンの場合、「複数の場所」で同様のデータを保管しているため、1箇所が止まっても、システムは稼動し続ける。また改ざんが極めて困難な「仕組み」のため、セキュリティに要する費用も安くすむ。

第二に、事務コストの削減が期待される。これまではデータが特定の場所にしかなかったため、「管理者」を経由するなど複雑なやり取りが発生し、その都度、情報の確認・照合を行うことも少なくなかった。

ブロックチェーンでは「管理者」が不要となり、情報が共有化されるため、複雑だった事務プロセスを簡素化することが可能になる。例えば、貿易金融などの分野では、取引関係者が多く、煩雑な事務プロセスが大幅に効率化されることが期待できる。

ブロックチェーンには課題も多い。ブロックチェーンは高速・大量処理が苦手で、データの修復が困難なことは、よく指摘される。

またブロックチェーンで既存システムを置き換える場合には、その移行コストが膨大だとの声もある。すでに大規模なシステムが構築されている分野でブロックチェーンを導入するのは容易ではない。

そのため、インフラが未整備な新興国や経済規模の小さな国で、ブロックチェーンが先行的に導入されていく可能性がある。政府の汚職などで「管理者」が信頼できない新興国では、特にブロックチェーンの活用が進みやすいだろう。

ブロックチェーンでは、新興国で最初に導入され、それが先進国市場に逆流し席巻する「リバース・イノベーション」が十分想定される。

(ブロックチェーンは金融の業界地図を塗り替えるか)

ブロックチェーンは、Fintech(フィンテック)の中核技術として位置づけられることも多い。多くの金融機関がブロックチェーンの研究・開発に取り組んでいる。また複数の金融機関がコンソーシアムを組み、業界標準を作ろうという動きもある。

金融機関の注目を集めるのは、ブロックチェーン導入のコストメリットが大きいためだ。大手金融機関はブロックチェーンを活用することで、30%のコストを削減できるとの試算もある(*2)。しかし、伝統的な金融機関が熱心にブロックチェーンに取り組む理由は、コストだけではないだろう。

ブロックチェーンは金融業界を一変させ、業界地図を塗り替える可能性がある。中国ではスマホ決済が急拡大しているが、サービスを提供しているのは伝統的な金融機関ではなく、アリババ(*3)やテンセントなどのIT企業である。

同様に、ブロックチェーンによる金融サービスを提供するIT企業が、伝統的な金融機関のシェアを奪う可能性がある。

大手金融機関は、新興企業が台頭する前に、自らブロックチェーンを取り込むことで、生き残りを図ろうとしているという見方もできる。ブロックチェーンをめぐる伝統的な金融機関と新興IT企業の覇権争いは今後も注目である。

(ブロックチェーンは多くの新サービスを生み出すと期待)

金融以外にも応用が期待される分野は多岐にわたる。土地登記や戸籍などの権利証明やサプライチェーン、シェアリング・エコノミーなど様々である。

注目される応用事例の一つが、「スマートコントラクト」である。ブロックチェーンに契約を書き込み、設定された条件が満たされれば、契約を自動で執行する仕組みである。スマートコントラクトの概念はブロックチェーンが開発される前の1990年代からある。

例えば、自動販売機もスマートコントラクトだといわれている。自動販売機は、「必要な代金を投入」、「特定の商品のボタンを押す」という2つの条件が満たされると、「特定の商品が提供される」という契約が自動で実行される。

自動販売機とは異なり、従来のデリバリーを約束する契約などでは、契約の執行が契約の相手方に委ねられることが多い。そのため、相手方が信頼できるか、第三者保証がないと、契約は成立しづらい。

しかし、ブロックチェーン上で契約と執行をプログラム化すれば、契約が機械的に執行されるため、相手方への信頼や第三者の保証は不要となる。

ブロックチェーンによる「スマートコントラクト」が広まることで、様々な契約締結や執行プロセスが自動化され、新たな市場が生まれるという期待も大きい。

(ブロックチェーンの本格的な普及には時間がかかる)

ブロックチェーンはすでにビットコインなどで実用化されており、将来的に社会を変革する可能性のある技術だ。しかし、まだ発展途上の技術であり、今すぐに本格的に普及するような段階ではない。パソコンやインターネットも、本格的に普及するまでには時間がかかった。

世界経済フォーラムは、ブロックチェーンが社会に変革をもたらすのは2027年との調査結果を示している(*4)。言い換えれば、専門家の多くは、ブロックチェーンが私たちの生活の一部となるのは、10年後だと見ている。ブロックチェーンは、遠くない将来に世界を変える可能性があり、今後の動向が注目される。

(*1) ネットスケープ社を創業したマーク・アンドリーセン氏は、2014年時点のブロックチェーンを「1975年のパーソナル・コンピュータ、1993年のインターネットに匹敵する技術」と述べている(New York Times 紙、2014年1月21日)。

(*2) Accenture(2017).”Banking on Blockchain: A Value Analysis for Investment Banks” では、世界の大手投資銀行8行のコスト構造を分析し、ブロックチェーンを活用することで年間のインフラコストを平均30%削減できると試算している。これは8行合計で年間80~120億ドルのコスト削減に相当する。

(*3) 正確には、アリババ・グループ・ホールディング傘下のアント・フィナンシャルがサービスを提供している。

(*4) World Economic Forum(2015),”Deep Shirt: Technology Tipping Points and Societal Impact” では、「GDPの10%がブロックチェーン上で計上される」ことをブロックチェーンの転換点とし、サーベイによると2027年にこの転換点を迎える見通しである。

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(2017年4月27日「研究員の眼」より転載)
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